銚子市・滞在型アトリエ・アーティストレジデンス「ロクの家」を運営する宮内博史さん

こんにちは。船橋市を拠点に房総半島を回りながら各地で活躍する人を取材しているやまけんです。

今回は、千葉県の端っこ、チーバくんの耳にあたる「銚子市」で、空き家を使って滞在型アトリエ(アーティストレジデンスというらしい)「ロクの家」を運営する宮内博史さん(34)に話を伺ってきました。

ロクの家は、築60年を超える旅館を借りてリノベーションし、アーティストが創作活動のアトリエとして利用するのはもちろん、作品の展示やワークショップなども行えるほか、滞在型として長期宿泊しつつ作品つくりに没頭できる環境が整えられている。

実家のホテル事業建て直しと「かもめホテル」

銚子市出身の宮内さん。実家は、銚子駅近くで「ビジネスホテル中央」というホテル経営をしていたそうです。銚子商業高校を卒業して、大学卒業後に実家のホテル事業建て直しに着手したのだとか。

日本一といわれる「銚子港」を背景に、江戸時代には、東総地域の商業中心地として栄え、その後紀州からやってきた漁師たちが「戸川港」を整備したという。漁業に加え「ヤマサ」「ヒゲタ」擁する醤油生産業、市域の西側エリアでは広大な平野部を利用した稲作、東部の丘陵地域ではキャベツ栽培など農業も盛んな街として知られています。

これらの産業に加え、利根川河口にあるという立地を活かして水運の要所としても機能。ピーク時の昭和25年~30年頃(1950年代)にはピークを迎え9万2000人あまりの人口を抱えるほどに成長しました。

ところが高度経済成長とともに徐々に過疎化が進み、現在の人口は6万人を切るほどまで減少。

当然、人口の減少とともに産業が減り、商店も減りました。商用でやってきた人たちを宿泊させていたビジネスホテル事業は昔と同じことをやっていたらとてもじゃないけど太刀打ちできません。

そこで、宮内さんは商業高校で学んだ「簿記」の知識を活かし、会計を担当。

予算を立てて経営管理をしたり、「ビジネスホテル中央」というホテルの名前を「かもめホテル」というほのぼのしたネーミングに変更。

かもめホテル

かもめホテル/Kamome Hotel

施設内も自らリノベーションし、壁面にイラストを描くなどしてポップな感じにリニューアルしたんだそうです。

そうした手直しが実を結び経営は無事に黒字化を達成。宮内さんは、絵を描く時間と自由を手に入れたんだそうです。

宮内さんの目線

宮内さんの運営する「ロクの家」は、宮内さんの作業場でもあり、仲間のアーティストの展覧会を開く「ギャラリー」でもあるスペース。当然、多くの人に知ってもらった方が良さそうなのですが、宮内さんは特に宣伝するでもなく、大きく広げようとも考えていない様子。当然、観光客に周知してお金をとるつもりもなさそうだ。

しかしもし、観光客の中でたまたまロクの家を見つけて、興味を持ってくれる人がいて「ふらっ」と立ち寄ってくれたらそれはそれで「こんにちは」と歓迎するという。

「気付いた人がふらっと入ってきてくれたらいい。嫌な人が来たら断ればいいやと思って始めてみたけど、嫌な人が来たことがないので…」と、ロクの家のスタンスを優しい微笑みで教えてくれる。

ポツポツと紡ぎだすように言葉を発してくれる宮内さん

「ロクの家」と並行して駅前の空きビル再生にも取り組んでいるという。こちらは、「いつ完成するかわからない。たぶんずっと完成しない」というプロジェクト。

ビルのリノベーションに参加するのは、不登校の子ども達や銚子での普段の生活で知り合った人々だという。

宮内さんは人と接する時、相手に対してたくさんの興味をもってのぞみ「相手が何を大切にしているのか、どんなことを考えているのか」といった点に注意しながら相手の話を聞いているように感じる。

そうして、その人が大切にしている「焦点が当たらなかったけれどもコツコツ取り組んできたもの」を掘り起こし、その表現を一緒にしていくような感覚でビルのリノベーションを行っているようだ。「お客さん」ではなく、あくまで「仲間」。お金とか権力ではなく「何となく楽しいよね」という感覚で一緒の時間を過ごしているのだ。

「自分が面白い」ことが大切だけど「相手も面白い」と感じてもらえる事を大切だと考える。いま取り組んでいる活動も「銚子の為」に何かをやろうというのではなく、もちろんビジネス的な視点でもない。自分が「興味を持って面白いから」やっているという自然な活動なのだと感じる。

宮内さんがアトリエとして使っているロクの家

宮内さんのワークショップには、子育て中のママたちや幼児、不登校の会の子ども達、地域のおじちゃんおばちゃんたちも参加するという。幅広い年齢層の人たちが宮内さんの作る空間に集うのは、そこが心地よいからに他ならないだろう。

ロクの家に関しても、「観光客向けに」展示とかワークショップをする場所ではなく人と人とが人として繋がれる場所として機能させている。「関係人口」という言葉にはしっくりこない様子で、「ゆるやかなつながりが継続的に続く関係」を大切にする。北欧ではこうした概念を「短期的な住民」として捉えるのだという。

漁港と醤油製造で発展してきた銚子の街

ライプツィヒで見て、体験してきたこと

宮内さんは約20年前の留学時代、旧東ドイツ地域にある「ライプツィヒ」に滞在していたのだという。

当時、ドイツの中でも最も荒んでいる地域とされ、売春や麻薬なんかも横行していたという「ライプツィヒ」。この町で一人の日本人大学生が空き家再生モデルを手掛けていたのだという。

当時のライプツィヒは、人口も半減、空き家も50パーセント近くになっている状態。歴史的に価値の高い建物が数多くあるにもかかわらず街は荒廃し、多くの人たちから見放されていたのだという。空き家はどんどん壊して緑地化していこうとする運動が進んでいたそうなのですが、これを「壊すのではなく建物を文化として残そう」、「空き家に住もう、活用しよう」という運動「ハウスハルテン」が興ったのだそうです。

荒れているからこそ、空き家を安く借りることができ、維持管理や補修に関する費用が物件オーナー側にかからない。さらに、貸借間で有期の賃貸借契約を結んでおくことで物件のあるエリアにどれくらいの賃貸需要があるのかを見極めることができるというメリットが生まれる。

一方借り手側は、自己負担金なく物件を借りることができ、リノベーションするための技術を磨く事ができる。また、契約期間が決まっているのでその間に事業化することを目指して思いっきりチャレンジする事ができるという方法だ。

ライプツィヒで宮内さんが出会ったこのモデルに、触発され故郷に戻ってきた宮内さんは銚子の街をライプツィヒに見立てて駅前の空きビルを利活用する事を始めたのだろう。

宮内さんがこのライプツィヒの街で出会った日本人大学生がまちづくり活動家として多くの著書を持つ大谷悠さん。僕はこの日、宮内さんに紹介して頂いた「都市の隙間からまちをつくろう」(大谷悠:学芸出版社)をAmazonで購入しました。

都市の〈隙間〉からまちをつくろう: ドイツ・ライプツィヒに学ぶ空き家と空き地のつかいかた

https://www.amazon.co.jp/dp/4761527471/ref=cm_sw_r_cp_api_glc_i_4XT10TSCQ3THXSB1NQ6Z

千葉県は比較的人口減少の影響を受けている地域がまだ少なく、人口減の影響を受けていたとしてもそもそもの人口が多いためにそれほど深刻な影響を受けていないように感じられる。特に、300万人の人口を抱えている県北西部(千葉市、船橋市、柏市、市川市、松戸市ほか)は全国の他地域と比較しても危機意識が低い。

僕は、10年以上にわたって船橋市民大学の講師を務めてきたがその時に必ず言うのは「20年後の船橋はきっと人口減に向かう。その時になって焦ってもあとのまつり。今から準備をして街づくりや街の人口流出に備えていかなければならない」という話。

銚子市は、人口が9万人超から6万人欠けるまで減ってきたからこそ人口減と中心部の空きビル・空き家問題が浮き彫りになり、それをライプツィヒで体験してきた宮内さんだからこそ危機感を感じ、真剣に取り組むようになっているのだと感じる。

そして、宮内さんが持っている独特の空気感で「責任」とか「任務」みたいな重たい感じのノリではなく、ワークショップや表現を「楽しみながら」街づくりに参加できる仕組みに昇華されているのだと思う。

決して、おごらない。そして、自分を見失わない宮内さんの街づくり。いや、宮内さんの「表現活動」というべきか。日本が唯一の価値を持っている自国の文化をどうやって表現し、次の世代に繋いでいくのか。宮内さんの取材を通じてますます考えさせられた。

ロクの家

店名:ロクの家
住所:千葉県銚子市大橋町15-5
TEL:なし
営業時間:不明
定休日:不明
駐車場:近隣にご厚意で借りている駐車場があるそうです
公式HP:ロクの家 | 6 house (6haus.com)


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